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AACとは

(1) AACの発展

自立を自己決定と考えるならば,何らかの手段で相手に自分の意志を伝える必要があります。そこで,コミュニケーションの確立こそが障害を持つ人々に与えられた優先課題だと考えられるようになってきました。このコミュニケーション確保の方法についての研究領域は,AAC(拡大・代替コミュニケーション/Augmentative & Alternative Communication)と呼ばれています。
これまでは,障害を持てばその障害をいかに克服するかを課題として,障害に応じた様々な機能回復訓練が行われてきました。例えば,歩けなければ,歩行訓練を,話せなければ言語訓練を受けるのが優先されてきたといえます。それらの技法は,それぞれの障害の中で使われ,広まってきましたが,AACの哲学,思想は,その障害の枠 を超えて存在するものと考えられます。
AACは,それらの訓練を決して否定するものではありません。どの障害にも共通してコミュニケーションの障害は存在します。本人の意志を尊重することは,その障害がどのような状況であっても非常に重要なことであり,その障害の改善と同時に,コミュニケーションの確保も考えようと言うのがAACアプローチです。Vanderheiden & Yoder(1986)は,拡大コミュニケーション(Augmentative Communication)を「残存する音声あるいは言語コミュニケーション能力を補うエイドや技法の利用を指す」,代替コミュニケーション(Alternative Communication)を「音声の全く無い人に用いられるコミュニケーション技法を指す」と述べています。また,Von Tetzchner & Martinsen (1992)は,拡大(Augmentative)という言葉は,個人が話せない場合の補足的スピーチを促進する目的とコミュニケーションの代替を含み,代替コミュニケーションは,音声以外の方法で個人が人と向き合ってコミュニケーションをとる場合に使われると述べています。拡大コミュニケーションという考えそのものは,今に始まったものではありません。実際,ジェスチャーやサインを使ったコミュニケーションは,AACという考えが整理されるずっと以前から,言い換えれば,人類の歴史と共に存在したと思われます。Zangari, Lloyd, & Vicker(1994)は,1950年代後半から1960年代にかけて,その萌芽がみられると述べています。しかし,その研究として脚光を浴び始めたのは,1970年代に入ってからのことで,それまであった手話等のサインコミュニケーションに加え,シンボルを使ったコミュニケーションについて多くの研究者が論文発表を行っています。この時期,AACという言葉よりも,AC(Augmentative Communication)という用語がしばしば用いられています。1970年代後半になると,この中に,工学的機能代行の考えが徐々に入ってきます。McDonald, Mcnaughton, Harris-Vanderheiden, & Vanderheiden (1977)は,非音声コミュニケーションの技法について,様々なエイドを用いた方法を初めて理論的に紹介していますし,1978年には米国Phonic Ear社から,音声合成機能を持ったコミュニケーションエイドの市販が開始されています。AACという用語が定着したのは,1980年代に入ってISAAC (International Society for Augmentative & Alternative Communication)が設立されて以降のことだと考えられます。
AACについて,ASHA(American Speech-Language-Hearing Association, 1989,1991)の定義を要約すると,「AACとは重度の表出障害を持つ人々の形態障害(impairment)や能力障害(disability)を補償する臨床活動の領域を指す。AACは多面的アプローチであるべきで,個人の全てのコミュニケーション能力を活用する。それには,残存す る発声,あるいは会話機能,ジェスチャー,サイン,エイドを使ったコミュニケーションが含まれる。」と言うことになります。
AACの基本は,手段にこだわらず,その人に残された能力とテクノロジーの力で自分の意志を相手に伝えることであると私は解釈しています。歩けることよりも移動できること,しゃべれることよりもコミュニケーションできることへの価値転換が求められているような気がします。


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Last modified : 2002.11.25
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