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Editorial 誰もが満足する支援技術の利用に向けて

中邑 賢龍

この数年間で我々を取り巻く社会状況が大きく変わりつつあります。テクノロジーの進歩だけでなく,高齢化する社会に注目が集まり,障害に対する見方も変化してきました。「こころリソースブック」が扱う電子福祉機器が,真に,人々の助けとなる上でポイントとなる4つの点について,論じてみたいと思います。

1 デジタルデバイド解消に向けた支援技術サービス提供者養成の必要性

インターネットの普及など社会のIT化が進行しています。それにより,多くの障害を持つ人が恩恵を受けています。例えば,移動に困難があり就労が出来なかった人もインターネットを利用して仕事するチャンスが広がっています。また,音声コミュニケーションが困難だった人たちも電子メールなど文字通信ツールを利用して多くの人と気楽にコミュニケーションが可能になってきています。このように,IT機器は一部の障害を持つ人にとって不可欠な道具となりつつあります。

一方,IT機器を利用できない人たちが情報化社会の中で取り残されていくことが危惧されています。総務省平成12年「通信利用動向調査」によれば,一般世帯のインターネット利用率が34.0%なのに対し,高齢者世帯(世帯主が65歳以上)のインターネットの利用率は,17.1%と半分の利用率にとどまっています。障害を持つ人の利用率はさらに低く,郵政研究所の「身体障害者、高齢者に優しい情報通信の在り方に関する調査研究報告書」(平成10年1月)や「知的障害者・要介護高齢者に優しい情報通信の在り方に関する調査研究報告書」(平成11年3月)によれば,各障害の利用率は,視覚障害3.0%,聴覚障害11.1%,音声・言語障害14.5%,肢体不自由8.2%,知的障害児・者0.7%とさらに低い利用率に留まっていることがわかります。このデジタルデバイド(情報格差)の解消のため,各地でIT講習会が実施され,障害のある方やご高齢の方々も参加されています。しかし,操作やそれを学ぶことに特別な配慮や工夫が必要な人たちに対し,適切なアドバイスを出来る人が不足しています。そのため,経済産業省は,「電子情報支援技術に関する研修プログラム」開発を,厚生労働省は,「パソコン支援者養成事業」を今年実施予定です。さらに,総務省は「高齢者・障害者の情報通信利用を促進する非営利活動の支援についての研究会」を開催するなど,国としての取り組みも始まっています。様々な機関が連携し,早急に支援者を養成することが求められています。

2 ユニバーサルデザインの推進

障害観が,特別なものとしての障害から,誰もが持つ可能性のある障害へと変化しつつあります。それに伴って,街づくりや物づくりが誰にも利用しやすいこと(ユニバーサルデザイン)に配慮されるようになってきました。シャンプーとリンスを区別する突起,シャワートイレなど障害を持つ人のニーズから生まれた製品を誰もが便利と感じて利用しています。また,パソコンなど一般製品にも,障害を持つ人や身体機能が低下した人も利用できるようにする機能が組み込まれています。このような共用品と呼ばれるユニバーサルデザインをもつ製品の普及は著しく,こころリソースブックでもICレコーダやテレビ電話など一般製品でありながら障害を持つ人にも便利な製品の掲載が増加しています。

このユニバーサルデザインの考え方は,「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」など,法律の整備にも結びついていますし,IT機器が多くの人に利用できるように,「障害者・高齢者等情報処理機器アクセシビリティ指針」(2000年6月 通商産業省告示第362号)や「障害者等電気通信設備アクセシビリティ指針」(1998年10月郵政省告示515号)も出されています。ますますの推進が期待されています。

3 社会福祉基礎構造改革と自己決定

平成12年度からスタートした介護保険制度や社会福祉基礎構造改革は、従来の福祉サービスを措置(行政が行政処分によりサービス内容を決定)から利用者が事業者と対等な関係に基づきサービスを選択出来るように改めるものです。これは,当事者の生活の質を高める上でも重要な改革ですが,障害を持つ人や高齢者がサービスをどのように選んで良いか分からないということが起こっています。サービスに限らず自ら選択を行った経験が少なく人は,サービス提供者に示されるままのサービスを受けざるを得ないケースがあるのも事実です。そのため,サービスを選択できるというメリットが十分生かされていません。特に重度のコミュニケーション障害がある人の自己決定を引き出す技術を持った介助者は多くありません。また,サービス内容について分かりやすく提示する技術についても不足しているように思えます。介助者がそれらの技術を学べる場の提供と,コンテンツの提示やコミュニケーションへの電子技術の活用が一層求められています。

4 機器利用と人権擁護

高齢化社会の進行とその対策が進んでおり,技術面でも痴呆性老人向けの監視装置の増加は顕著です。GPSを利用した位置探索システムから監視カメラやセンサーまで,様々な製品が市販されています。しかし,監視される人々の人権への配慮という点では十分とは言い難いものがあります。

その背景に日本人の生活スタイルや障害に対する考え方があります。日本では,親を家族で介護する必要があるとの考えが一般的であり,監視について,「親に何かが起きると困るので,GPSやカメラによる監視は仕方ない」,「子供に迷惑をかけたくない」という意見の中で被監視者のプライバシーは犠牲になりがちな構図が出来あがっています。

一方,ノルウェーのように,監視装置導入のガイドラインを制定している国もあります。ノルウェーでは,成人以降は親子は別々に暮らすのが一般的であり,自分で生活していくことが求められているだけにプライバシーについて誰もが敏感です。監視されるのは自己管理できないからで,監視装置を導入する前に被監視者が自己管理できるようになる装置を適用するのが先であるといった考えが生まれています。このように,人権擁護の視点から,監視機器導入を一度考えてみる必要があります。日本においても監視システム導入のガイドラインが必要かと思われます。

ただ機器を持ってくるだけでは誰もが満足できる機器利用に結びつくとは限りません。我が国においては,福祉機器開発研究は大きく進んでいますが,それに比較して,利用についてはあまり考えられていないように思われます。今後は,機器利用に関する研究を開発と平行して強力に進めていく必要があるように思われます。


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Last modified : 2002.11.25
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